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23話 もう一つの戦い方と、アリアの秘密

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-08-10 07:00:51

 ユウヤは腰の後ろから一本の剣を取り出した。かつて、冒険者になるお祝いとして両親から贈られた、中古の剣。魔術師である自分には場違いな武器だったが、捨てることもできず、手元に残していた。

(……俺、魔術師なんだけどなぁ)

 そんな苦笑い混じりの思い出とともに、ユウヤはその剣を自らの手で“魔改造”していた。魔力を通すための導管を仕込み、刃には魔法陣を刻み、魔術と剣術の融合を目指した一本。

 今、その剣が静かに鞘から抜かれる。

(さあ、試してみるか――俺の“もうひとつの戦い方”を)

 ユウヤの瞳が鋭く光り、次なる戦いに向けて、静かに歩を進めた。

 魔改造――といっても、そこまで大げさなものじゃない。 剣に魔石を嵌め込み、ナイフ程度の切れ味と耐久性を底上げし、ついでに軽いステータス異常を付与しただけだ。

 斬られれば、速度の大幅低下、視界不良、全身の痺れ――その程度。 致命的ではないが、戦闘中に受ければ十分に致命傷になり得る効果だ。

(まあ、間違って自分を斬っても、俺にはステータス異常無効のスキルがあるし大丈夫)

 念のため、アリアやミーシャがうっかり触って指を切っても、ステータス異常だけで済むように調整してある。寝ていれば自然に治るレベルのものだ。

(毒とか、持続ダメージ、即死効果も付けようと思えば付けられたけど……)

 それはやりすぎだと判断した。 万が一、誰かが誤って手を切ったら――それは“事故”では済まされない。 危険なものを作るより、即死させたいなら魔法で安全かつ確実に仕留めた方がいい。

 剣に持ち替えて攻撃してみると、これが意外と面白い。 魔法と違って、手応えがある。 防がれても、かすり傷さえ与えられれば、ステータス異常で魔獣の動きが鈍る。 そこを突けば、たいていは止めを刺せた。

 ただ、上級の魔獣となると話は別だ。 外皮が異常に硬かったり、魔力で全身を覆っていたりして、そもそも傷がつかないやつもいる。

(いちいち魔石を回収して倒すのも、正直面白くないしな)

 そこで、剣に新たな付与を施した――《絶対切断》。 どんなに硬かろうが、どれだけ魔力で防御されていようが、触れた瞬間に切断する。

 その効果は絶大だった。 重装甲の魔獣も、魔力障壁を張った飛行種も、まるで紙を裂くようにサクサクと討伐できるようになった。

(……これは、ちょっとクセになるかもな)

 ユウヤは、静かに剣を構え直した。 その刃は、魔力の光を帯びながら、次なる獲物を求めて森の空気を切り裂いていた。

「ユウくん……剣、使えたの……?」

 その声に、ユウヤはビクリと肩を跳ねさせた。

(えっ!? わっ……アリア!? やばっ、討伐に夢中になりすぎた……! 全然気づかなかった……見られた!?)

 アリアの声に、内心で焦りまくるユウヤ。振り返ると、結界の向こう側でアリアが不思議そうにこちらを見つめていた。

「えっ!? あ……ちょっと待ってて!」

 慌てて返事をすると、周囲に残っていた魔獣を手早く魔法で処理する。 「パシュ! パシュ!」と、いつものように魔力の矢が放たれ、魔獣たちを正確に仕留めていく。

 すぐに結界を解除し、アリアたちのもとへ戻る。

「えっと……これはさ、アリアにナイフをプレゼントしただろ? あれと同じでさ。俺も、冒険者になったときに両親から剣をもらったんだよ。中古のやつだけど」

 ユウヤは、手にした剣を見せながら、必死に言い訳を繋げる。

「で、それにちょっと手を加えて……耐久と斬れ味、それに軽いステータス異常を付与してあるんだ。だから、まあ……ラクに討伐できるっていうか……」

 額にはうっすらと汗がにじみ、声もどこか上ずっている。 明らかに“誤魔化してます”という空気が漂っていた。

 アリアはそんなユウヤをじっと見つめていたが、やがてふっと微笑んだ。

「ふーん……そうなんだ。ユウくんって、ほんと器用だよね」

 その言葉に、ユウヤは少しだけ肩の力を抜いた。 けれど、アリアの目はどこか鋭く、すべてを見透かしているようでもあった。

(……やっぱり、ちょっとはバレてるかもな)

「あぁ〜、あれかぁー。それってすごいんじゃないの? そんな武器、見たこともないよー? 剣士に見えて、格好良かったよ!」

 アリアは、ユウヤの説明を素直に信じたようで、目を輝かせながら称賛の言葉を口にした。その瞳は、まるで憧れの英雄を見つめるように、純粋な光で満たされている。

「……あ、秘密でお願いね」

 ユウヤが少し照れくさそうに言うと、アリアはすぐに頷いた。

「うん、もちろんだよー♪ そんな武器を作れちゃうんだから、バレたら他の人に引っ張られて、一緒のパーティでいられなくなっちゃうよっ」

 そう言いながら、アリアはユウヤの腕をぎゅっと掴んだ。真剣な眼差しで見上げるその表情には、ユウヤを失いたくないという気持ちがにじんでいた。

「俺も、アリアと同じパーティでいたいしさ」

 ユウヤの言葉に、アリアはふわっと笑みを浮かべた。

「えへへ……ありがとぉ♪」

 けれど、その笑顔はすぐに引き締まる。アリアの視線が、ふと森の奥――倒された魔獣の山へと向けられた。

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